死を祈る川
「誰かを激しく憎んだことはありますか?」
その人がこの世から消えてほしいと思うほどに。でも本当は、ただ怒っているだけで、本当に死んでほしいわけじゃない。もし本当にそうなったら、一生罪悪感を抱えて生きることになるから。
でも、今回は違った。私はある男が憎くてたまらなかった。今すぐ死んでしまえばいいと思うほどに。 「嘘つきのトゥイ、死んじまえ!」 私は財布に入れていた元彼の写真を怒りに任せてくしゃくしゃに丸めた。スマホの中の写真はもう全部消してある。
別れの理由は、彼に本命の彼女がいたから。そして、その彼女が私に暴力を振るいに来たからだ。 「こんなにイケメンで甘え上手な人が、なぜ独身なんだろう」と薄々感づいてはいた。けれど結局、彼のルックスに負けてしまった。最後には、彼の彼女に待ち伏せされて手を出され、見せしめにされて恥をかかされた。
「死ね、クズ野郎!」 脳内を整理するために叫んだ。心のどこかでは分かっている。憎い相手の写真を川に投げたところで、本当に人が死ぬわけがない。ただの気休めだ。
ところが数日後、カバシ(トゥイ)が、私が写真を投げ入れた川に身を投げて自殺したというニュースを聞いた。 それを知った時、私はひどく落ち込んだ。あり得ないことだ、ただの偶然に決まっていると言い聞かせた。
すべてはそこで終わるはずだった。もし、「憎い相手の写真を川に投げ捨てて呪うと、その相手が死ぬ」という奇妙な噂が流れ始めなければ。
噂を聞きつけた人々が同じことをし始めた。誰が言い出したのかは分からない。でも、きっと誰かが、私がカバシの写真を投げ捨てて呪詛を吐いているところを見たに違いない。 しかし、噂は所詮噂だ。他の誰が真似をしても、その川で死ぬ者は現れなかった。それを見て、私は「カバシの件はやはり偶然だったのだ」と確信した。
時が過ぎ、私は再び心を開き、恋をした。 だが今回も同じだった。私は結局、いつも男に騙されるバカな女なのだ。 それが偶然だと分かっていても、こうせずにはいられなかった。 「渡辺のクズ、死んじまえ!」 私は渡辺の写真を、かつてカバシの写真を捨てたのと同じ場所に投げ入れた。
翌日、渡辺はカバシと同じように水死体で見つかった。 またしても偶然だろうか。しかし、この事件をきっかけに「犯人は私だ」という具体的な噂が広まった。
「お願い、夫を殺して。離婚してくれないの。助けて」 ある女性がしつこくつきまとい、夫の写真を私に突きつけてきた。 「自分でやってみたけどダメだった。あなたにしかできないのよ」
いくら説明しても彼女は聞き入れなかった。耐えられなくなった私は、厄介払いとして引き受けることにした。二度あることは三度ある、なんて所詮は偶然のはずだから。 「死ね、ウメワさん」 私がその夫の名前を叫ぶと、彼女は感謝して報酬の金を差し出した。 気休めにしかならないだろうが、それで彼女の気が済むのなら。そう思っていたが、結果は逆だった。翌日、彼女の夫は本当にあの川で死んでいた。
私は一躍有名人になったが、信じない者も多かった。幸か不幸か、ここはネット環境も悪い辺境の村だ。外の世界にまで知れ渡ることはなく、テレビで有名にならずに済んでいた。 私の両親ですら信じていなかった。だが、この川の由来を調べてみると、かつて自分を捨てた夫の写真を呪いとともに投げ込んだ女の伝承があることが分かった。翌日、その夫は本当にここで死んだという。 その伝説があったからこそ、今回の噂には信憑性があったのだ。
「どうすればいい? 人を殺すなんて間違ってる」 私は男友達に相談した。その後も依頼を受けて試してみたが、すべて現実になってしまったからだ。 だが、老人たちや多くの村人は信じておらず、大人たちからお咎めを受けることはなかった。
「あの女から金をもらったんだろ? それに、君が直接手を下したわけじゃない。写真を捨てただけだ。それなら警察だって捕まえられないさ」 男友達は提案した。 「こうしよう。写真を捨てる仕事を請け負うんだ。俺がネットで宣伝して客を呼ぶ。そうすれば俺たちは大金持ちだ」 私はその言葉に乗ってしまった。 私たちは裏サイトを開設した。「憎い相手を殺すサイト」。写真を送り、金を振り込めば、その相手は川で自殺する。 サイトを開設すると、信じられないほどの依頼と金が舞い込んだ。一日に10枚以上の写真を処理することもあり、叫びすぎて喉を痛める日もあった。 そして、依頼された男女は次々と車でやってきては、その川で命を絶った。
事態はテレビ番組が取材に来るほどの大きなニュースになった。村長は柵を作ったり見張りを立てたりして川を封鎖しようとしたが、人々は隙を見て忍び込み、自ら命を絶ち続けた。
「怖がることはない。君の正体は伏せてあるし、村の連中も一部は信じていない。依頼した奴らも、自分が共犯になるのが怖くて口を割らないさ。だから安心して隠れて続けよう」 男友達は言った。 入り続ける収入のおかげで、川から死体が運び出される光景を見ても、私の心は痛まなくなっていた。これまでに何枚の写真を投げ込んだか、もう数えきれない。
しかし、麻痺していた心も限界に達し、私はやめたいと申し出た。 「待てよ、稼ぎ時なんだぞ」 男友達は惜しがった。当然だ、手を汚しているのは彼ではないのだから。 「私の勝手よ。心のどこかで罪悪感があるの。これで終わりにしましょう。でも、最後の一件だけ受けるわ。ある芸能人が、金を横領したマネージャーを殺してほしいって言ってるの。それが終わったらサイトを閉じて、何事もなかったことにするわ」
私は気が進まないながらも、最後の仕事として引き受けた。 今回の写真は、見知らぬ美しい女性だった。最後だと言い聞かせ、私は大きく息を吸い込み、いつものように彼女の名前を叫び、「死ね」と呪った。
だが、写真が水面に落ちた瞬間、異変が起きた。 穏やかだった水面から、一本の手が突き出したのだ。いや、一本ではない。数十、数百の手が。 そして、水膨れした男女の遺体が次々と這い上がってきた。
「キャーーーーー!」 私は恐怖で叫んだ。男友達は手が見えた瞬間に逃げ出していた。 私も逃げようとしたが、足がすくんで動けない。腐敗した遺体たちが、ゆっくりと私に近づいてくる。 何百、何千という遺体が私の脇を通り過ぎていった。奇妙なことに、彼らは私に目もくれない。
ただ二人、私の前に立ち塞がる男たちがいた。よく見ると、それはカバシと渡辺だった。 二人は逃げようとする私を捕らえた。私は必死に振り払い、追いかけてくる二人から逃げ続けた。
その時、私は見た。最初に夫の殺害を依頼してきたあの女が、水膨れした夫の亡霊に捕まっているのを。 「あなた、ごめんなさい! 私が悪かったわ!」 亡霊は妻を川へと引きずっていく。助けようとする人がいても、その遺体に触れることさえできなかった。
「伝説は本当だったんじゃ。川が魂で満たされた時、死者は生者を身代わりに引きずり込み、川を清める……」 街の中を歩く遺体を見て、老人が呟いた。
その時、私はカバシと渡辺に捕まり、川へと引きずり戻されそうになった。 あの女性も夫に抱かれ、共に川へ飛び込んだ。私が手伝った他の人々も、同じように死者に連れ去られていく。
川の縁まで引きずられた時、私はあることを思いついた。 必死に暴れて二人の手を逃れると、全速力でカバシと渡辺の家(あるいは彼らの所持品がある場所)へ向かい、二人の写真を再び手に入れた。
追いかけてくる二人の亡霊は、水を含んで重たくなった体で、鈍重な動きしかできなかった。 私は川へ戻り、二人の写真を再び投げ込んだ。 「あんたたち、もう一度死んじまえ! 二度と出てくるな!」 叫んだ瞬間、二つの影は目の前で溶けるように消えていった。
しかし、惨劇は終わらなかった。 街には今も、かつて私が呪い殺した者たちが、自分を殺すよう依頼した者たちを捕らえに現れている。 そして川は、心中するかのように抱きしめ合う、新旧の死体で埋め尽くされていった……。
(終)
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